Single Mother
中編
鋼のがいなくなって6年がたった。私は今准将になった。
6年前鋼のが無事身体を取り戻したと報告をしに来た時、柄にもなく喜んだ。彼等姉弟の長年の願いがかなったのだ。
その日は中央からアームストロング少佐にロス少尉、ブロッシュ軍曹、シェスカにヒューズ一家も呼んで祝賀会を開いた。突然のことだ
ったので店を予約する暇がなかったから私の家に集まることになった。
中央からやってきた面々に抱きしめられ、鋼のは少し泣きそうになっていたがそこはあえて言わないでおいた。折角の祝賀会なのだか
らわざわざ怒らせるのも大人気ないと思ったからだ。
途中ヒューズやハボックたちが調子に乗って鋼のとアルフォンス君に酒を飲ませだしたが、別に止めなかった。そろそろ酒の味も覚え
てもいいころだと思った。
するとアルフォンス君は意外といける口で平然と飲んでいたが、鋼のは最初は平然としていたが、しだいに酔いが回ってきたのか、フラ
フラになりだした。これ以上はやばいと思い、酒を奪ったら鋼のはその場で寝てしまった。仕方がないから私の寝室へ運び寝かせた。
しばらくしてお開きになったからアルフォンス君に鋼のを渡そうと寝室へ向かおうとするとアルフォンス君が止めた。
「すいません、大佐。今日姉さんここに泊まらせていただけませんか?」
「なぜだい?」
「姉さん、こうなると朝まで起きないんです。前に師匠のとこで同じようなことになって朝までどんなに起こしても起きなかったんです。そ
れに僕、今日はハボック少尉のとこに泊めてもらうんで姉さんも一緒だと少尉に迷惑がかかっちゃうんで・・・。ダメですか?」
「いや、そういうことなら別に構わない。鋼のはあのままでもいいのかね?」
「はい。あのままでいいです。すいませんがよろしくお願いします。」
そう言ってアルフォンス君は一礼してハボックたちのもとへ行った。
自分も寝る準備をしてリビングのソファで寝ようとしたが、ふと鋼のの様子がきになり寝室へ行くと鋼のがうなされていた。私は鋼のの頬
を2回ほど軽く叩いた。
「鋼の。大丈夫か?」
「う・・・ん・・・・・。」
すると鋼のが目を開けたがその目は焦点が合ってなかった。そんな虚ろな目をしながら呟いた。
「俺、本当にもとの身体に戻れたんだよな・・・。アルの身体もちゃんともとに戻してやれたんだよな・・・。」
「鋼の?」
「夢じゃ・・・ないよな・・・。」
するとポロポロと泣き出した。ぎょっとした私はとりあえず鋼のを抱きしめた。
「大丈夫だ・・・。夢なんかじゃない。君とアルフォンス君はちゃんともとの身体に戻ったよ。」
「そっか・・・よかった・・・。」
そう言って、少し笑って私の身体に抱きついてきた。その笑顔に不覚にも心臓が跳ね上がった。この子はこんな表情をする子だったか・・・。
よく考えてみると鋼のももう17歳だということに気付いた。もう大人の女性になろうとしている年だ。そう思うとこの子がとても愛しく、可愛
く思えて仕方がなかった。
「鋼の、好きだよ・・・。」
耳元でそう呟くと彼女は身じろぎして夢現のなか、
「じゃあ、俺を抱きたい?」
と聞いてきた。私は彼女の意識がほとんど夢の中になるのをいいことに、
「ああ。」
と答えた。
「じゃあ、いいよ。」
そう言って彼女は夢の中へ入っていった。
次の日、私は鋼のの蹴りで目が覚めた。
「何するんだい鋼の・・・。」
「これ、どういうことだよ!!」
どうやら鋼のは怒り狂ってるらしかった。
「どういうとは・・・?」
「なんで俺何も着てないんだよ!!」
・・・・・・・、まさか・・・
「君が抱いていいと言ったんだ。覚えてないのかい?」
私が言うと鋼のは顔面蒼白という言葉が当てはまるぐらい顔を真っ青にして硬直してしまった。
「まさか、本当に覚えてないのかい?」
焦って私が鋼のに言うと鋼のは聞こえないふりをして布団を頭からかぶってしまった。まるで泣きそうな自分を見られないようにするた
めのように。
「そうか。すまなかったな。服はここにおいておくから。私はもう出勤しないといけないから、君は好きにしなさい。」
返事をしない鋼のに私はどうすることの出来ずに謝って部屋を出て行くことしかできなかった。
昨日は鋼のがいいと言ってくれたけどあれは寝ぼけて言った言葉だ。信じていいはずの言葉じゃなかった。なのに私はそれを鵜呑みに
してまだ17歳の子を抱いてしまった。
その後、鋼のはアルフォンス君を連れてリゼンブールに帰ったと聞いた。正直、私はほっとした。今はまだ彼女の顔を見れないと思った
からだ。
それから2ヶ月ぐらいたったある日、大総統が私のいる東方司令部を尋ねてきた。急な訪問に司令部中が大騒ぎしている中、大総統は
私にこっそりと告げた。
「鋼の錬金術師君が国家資格を返還したよ。」
と。
私は驚いて声もでなかった。まさか、鋼のが私に内緒で国家資格を返還していたなんて。理由を問うと大総統は答えてくれなかった。
「それは彼女と私の秘密だから言うことはできないよ。」
まるでこれ以上は干渉するなと言っているようだった。そして、それだけを告げると大総統は嵐のように去っていった。
その日から、自分がもっと上へいって彼女を探す決心をした。もっと上へ行けば誰にも邪魔されずに彼女を探せると思ったからだ。
部下たちはずっと鋼のの行方を調査してくれていた。が、見つからなかった。アルフォンス君に聞いても「旅に出ています。」と言うだけ
だった。彼も幼馴染の女性と結婚して現在故郷で医者をしていると言っていたそして子どもがいるとも言っていた、育児に仕事に忙しい
のだからあまり電話をするのも得策ではないと思った。
そして、西方司令部へ資料を届けるために行っていたハボックが情報を持って帰ってきた。
「今西方司令部中で噂ですよ!国境近くの100人足らずの小さな村に錬金術師がいるって。しかもとびきりの美人が。容姿は金髪金目
で小柄だそうです。」
「それは本当か?!」
「本当かどうかはわかりません、あくまで噂でしたから。」
「そうか、ホークアイ少佐!西方へ視察に行くぞ!」
「止めたって無駄なのでしょう。わかりました、明日出発の列車のチケットをとってきます。」
「感謝する。」
本当かどうかもわからない噂を、今までで一番有益な情報を頼りに私達は西方へと向かった。
「これはマスタング准将、ようこそいらっしゃいました。」
「挨拶ははぶかせていただく。国境近くの小さな村に錬金術師がいるという噂を聞いてやってきたのだが。」
「ああ!その噂ですか。はい、私の部下がヴェルという村を視察したさいに、錬金術を使う女性がいたそうです。」
「その錬金術の使い方は?」
「紙に練成陣を書くという方法だそうです。」
「そうか・・・。その女性の容姿は?」
「はっ。部下によると大変美しかったそうです、深い金髪に吸い込まれそうな金目だそうです。身長は155cmぐらいと少し小柄だそうで
す。」
「情報提供ありがとう。今からその村に行ってみるとするよ。」
「部下をつけさしましょうか?」
「いや、構わない。それだけの情報があれば見つかると思うよ。」
「はっ!ではお気をつけて。」
「ああ。」
ハボックの情報とほとんど同じことを確認し、そのヴェルという村へ急いだ。
村へ着くとその小ささに驚いた。そしてまず目についた八百屋の親父に聞いてみることにした。
「すみません、ここに錬金術を使う女性がいるという噂を聞いてきたのですが。」
「錬金術?さぁな?知らねぇな。」
「そうですか。ありがとうございます。」
その後、道行く人に聞くが誰も知らないという答えしか返ってこなかった。

